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クライアントの潜在能力を引き出す:ポジティブ心理学「強み」コーチングの実践ガイド

Tags: ポジティブ心理学, コーチング, 強み, VIA診断, ウェルビーイング

はじめに:コーチングにおける「強み」の重要性

ポジティブ心理学コーチングにおいて、「強み」への焦点はクライアントの自己理解を深め、内在する可能性を最大限に引き出す上で極めて重要な要素となります。従来のコーチングが課題解決や弱点の克服に重きを置く傾向があったのに対し、ポジティブ心理学に基づく「強み」コーチングは、クライアントが既に持っている才能、スキル、特性、価値観といったポジティブな側面に着目し、それを意図的に活用することで目標達成やウェルビーイング向上を支援します。

このアプローチは、クライアントが困難に直面した際に、自身の「強み」を認識し、それを問題解決に応用する力を育むことに繋がります。本記事では、ポジティブ心理学における「強み」の概念を紐解き、コーチングセッションにおいてクライアントの「強み」を発見し、効果的に活用するための実践的なアプローチとワークシートの活用方法について解説します。

ポジティブ心理学における「強み」の理解

ポジティブ心理学における「強み」とは、単なるスキルや才能以上のものです。それは、個人が本質的に持ち合わせている、自然に発揮され、エネルギーをもたらし、優れたパフォーマンスへと繋がる特性や能力を指します。代表的な枠組みとして、クリストファー・ピーターソン博士とマーティン・セリグマン博士が提唱した「VIA性格的強み(Values in Action Inventory of Strengths)」があります。

VIA性格的強みとは

VIA性格的強みは、人類に共通する6つの徳目(知恵と知識、勇気、人間性、正義、節制、超越性)の下に、24の普遍的な性格的強みを分類しています。この分類は、ポジティブ心理学研究の基盤の一つであり、個人の最も核となる強みを特定するための有効なツールとして世界中で活用されています。コーチングセッションにおいてVIA性格的強みを理解することは、クライアントが自己の強みを客観的に認識し、それを具体的な行動に繋げるための道筋を示す上で非常に役立ちます。

クライアントの「強み」を発見するアプローチ

クライアントの「強み」を発見することは、コーチングのセッションにおける最初の、そして最も重要なステップの一つです。以下に、具体的なアプローチとワークシートの活用方法をご紹介します。

1. VIA強み診断の活用

VIA Institute on Characterが提供するオンライン診断ツール(無料版あり)は、クライアントが自身の性格的強みを客観的に知るための有効な手段です。セッションの前にクライアントに診断の実施を推奨し、その結果をセッション内で深く掘り下げることが可能です。

2. 強みに関する質問とワークシート

診断ツールだけでなく、コーチングセッション中の対話を通じて強みを引き出すことも重要です。以下の質問例を参考に、ワークシートとして活用することもできます。

ワークシート例:私の強み発見ジャーニー

| 質問項目 | 回答・エピソード | | :------------------------------------------- | :------------------------------------------------------------------------------- | | Q1: 人生で最も達成感を感じた出来事は何ですか? | (例:困難なプロジェクトをチームで成功させた経験) | | Q2: その時、どのような能力や特性が役立ちましたか? | (例:リーダーシップ、粘り強さ、問題解決能力、協調性) | | Q3: どのような活動をしている時、時間があっという間に過ぎると感じますか? | (例:新しいアイデアを考える時、他者の悩みに耳を傾ける時) | | Q4: あなたの友人や同僚は、あなたのどのような点を褒めることが多いですか? | (例:いつも冷静であること、困難な状況でもユーモアを忘れないこと) | | Q5: どのような時、最高の自分であると感じますか? | (例:新しいスキルを習得した時、誰かをサポートできた時) | | Q6: あなたが当たり前だと思っていることの中で、実は他者から見て特別なことは何ですか? | (例:複雑な情報を分かりやすく説明すること、異なる意見をまとめること) | | Q7: どんな価値観が、あなたの行動や選択の根底にありますか? | (例:誠実さ、成長、貢献、創造性) |

これらの質問に対する回答を深掘りすることで、クライアントは自身の内なる「強み」に気づき、それが具体的な行動や成功にどのように繋がっているかを理解する手助けとなります。

3. 「フロー体験」からの強み抽出

ミハイ・チクセントミハイが提唱する「フロー体験」は、個人が完全に活動に没頭し、時間が経つのを忘れるほどの心地よい集中状態を指します。このフロー体験が生じる時、クライアントは自身の強みを無意識のうちに最大限に活用している可能性が高いです。

発見した「強み」を活かす実践的コーチング

強みを発見した後は、それをクライアントの目標達成や課題解決に統合していくことがコーチの重要な役割です。

1. 目標設定への統合

クライアントの目標設定プロセスにおいて、発見された強みを意識的に組み込みます。

2. 課題解決への応用

クライアントが抱える課題に対し、自身の強みを新たな視点から応用する方法を共に探ります。

3. 日常での意識的な実践を促す

強みは意識的に使うことでさらに育まれ、効果を発揮します。クライアントに日常生活の中で強みを意識的に活用する機会を設けるよう促します。

ケーススタディ:強みコーチングの実際

30代の女性クライアント、Aさんは、仕事に対するモチベーションの低下と将来への漠然とした不安を抱え、コーチングを始めました。セッションの中でVIA強み診断を実施したところ、Aさんの上位の強みとして「学習意欲」「向学心」「創造性」が挙げられました。

Aさんは当初、「自分の仕事はルーティンが多く、これらの強みを活かせる場面がない」と感じていました。そこでコーチは、Aさんが過去に新しい知識を習得した時の喜びや、趣味で新しいアイデアを形にしていた時の楽しかった経験を深掘りしました。

コーチの働きかけ: * 「あなたの『学習意欲』や『創造性』は、今の仕事のどのような側面に活かせると感じますか?」 * 「もし、今の仕事で何か一つ新しいことを学ぶ機会を創り出せるとしたら、それは何でしょうか?」 * 「ルーティンワークの中で、あなたの『創造性』を使って、何か改善できる点や新しい視点を持ち込めるとしたら、それはどんなことでしょう?」

Aさんはこの問いかけから、自身の担当業務プロセスにおいて効率化の余地があることに気づきました。そして、「新しいツールの導入」や「チーム内での情報共有方法の改善」といったアイデアを自ら提案し、実際に試みることを決めました。結果として、Aさんは仕事に主体的に関わることで活力を取り戻し、自身の強みが仕事の成果に貢献しているという実感を得ることができました。この経験を通じて、Aさんは漠然とした不安が軽減され、自己効力感が高まりました。

まとめ:コーチとしての「強み」活用の継続

ポジティブ心理学「強み」コーチングは、クライアントが自身の最も優れた側面を認識し、それを意識的に活用することで、人生のあらゆる側面でより充実した経験を創り出すことを可能にします。コーチとしては、クライアントが強みを発見し、それを活かすための具体的な行動計画をサポートし続けることが重要です。

強みは一度発見すれば終わりではありません。それは成長し、進化するものです。コーチ自身も自身の強みを理解し、それをコーチングセッションに活かすことで、クライアントの可能性を最大限に引き出す支援を継続的に提供できるでしょう。このアプローチを日々のセッションに積極的に取り入れ、クライアントの潜在能力開花をサポートしてください。